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264サイエンスノンフィクション一般とオーバーラップする分野だが、ここでは特に物理学、数学、生物学、医学、環境科学に関する書物を選んでご紹介する。19 世紀にカエルの心臓の培養に成功して以来、ニワトリやマウ....

264サイエンスノンフィクション一般とオーバーラップする分野だが、ここでは特に物理学、数学、生物学、医学、環境科学に関する書物を選んでご紹介する。19 世紀にカエルの心臓の培養に成功して以来、ニワトリやマウスなど、さまざまな動物の細胞培養が行われてきたが、ヒト由来の細胞は長期的に培養し続けることが不可能だった。しかし1951 年、アメリカのジョンズ・ホプキンス病院で世界で初めてヒトの細胞の培養に成功する。Henrietta Lacks という黒人女性が子宮頸がんで亡くなる前に患部から取り出された細胞は、これまでの細胞のように死ぬことはなく、旺盛に分裂を続けたのである。この不死の細胞は患者の名前からHeLa 細胞(ヒーラ細胞)と名付けられ、医学研究用に大量に増殖された。そして、ポリオのワクチン開発、がんの化学療法、クローン研究、原子爆弾が細胞に及ぼす影響の実験など医学の進歩に貢献してきた。無重力空間でのヒト細胞を研究するために宇宙ロケットに乗せられたこともある。しかし、科学者の間では有名なHeLa 細胞だったが、ドナーであるHenrietta の家族は病院から何も知らされていなかったのである……。不死身かつ増殖性が異常に高く、周囲の細胞に紛れ込んで汚染するHeLa 細胞は、それだけでも興味深い存在だ。この細胞はどこから来たのか? なぜ不死身なのか? それを知るためだけでもこの本を読む価値があるのだが、本書が語るのはそれだけではない。HeLa 細胞に関わる人々の人生、医療倫理の変化、アメリカ南部の人種差別の歴史……と現在へつながる影響も同時に語っているのである。また、本書は、HeLa 細胞と研究者、Henrietta と家族の人生、著者と遺族との関わり、という3 つのストーリーを交互に語ることで、科学ルポを超えた厚みのあるストーリーになっている。そのせいか、細胞に関する本だが、まるで小説のように読むことができる。専門的な内容ではあるが、一般の読者向けに書かれたものなので、通常のミステリが読めれば読みにくいとは思わないだろう。The Immortal Life of Henrietta LacksRebecca Skloot・ペーパーバック:400 ページ・出版社:Broadway Books・出版年:2011( 初版2010)・難易度:★★★★☆・適正年齢:PG15(高校生以上)・キーワード:医学(がん)/細胞学/医療倫理/社会問題/歴史『不死細胞ヒーラ ヘンリエッタ・ラックスの永遠なる人生』レベッカ・スクルート(著)、中里京子(訳)、講談社