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『多聴多読マガジン』の提供する練習方法のなかのひとつにシャドーイングがあります。
具体的にどうやってよいかわからない、というかたのために標準的なシャドーイングの段取りと、
実際に玉井先生がシャドーイング初心者に指導している様子を収録した音声がありますので、
実際に聞いてみてください。 <音声を聞くには、ここをクリックしてください>
耳に効くシャドーイングの方法


シャドーイングは、テキストを見ないで流れてくる音声を聞きながら、影のように後についてその音声をまねながら声に出していく学習方法です。
以下に無理なくシャドーイングに取り組むための標準的なステップを示しておきますので、目安にしてみてください。

練習のイニシアティブはみなさんにあるわけですから、そのときの気分や欲求、考え、時間的な制約に応じて自由に変えたり、取り出したりしてください。慣れるにしたがって、自分に最も合う組み合わせを作り出してください。自分で練習方法がデザインできたら、もうあなたは十分なエキスパート・リスナーです。

なお、実際にシャドーイングがほぼ初めてという方を指導したプロセスを収録した音声をダウンロードで試聴していただけるよう、準備中です。(収録音声に関して、くわしくは4月末発売予定の『シャドーイング超入門』をご覧ください)

Step 1 リスニング
まず、テキストを見ないで、一度聞いてみましょう

全体の意味を漠然とでもとってみましょう。意味がとれない場合は、まず、聞いているスピーチの種類の区別をしてみましょう。ニュース、インタビュー、演説、日常の会話など、私たちが耳にするスピーチにはいろいろなものがあります。あるいは、しゃべっている人物は何者なのか、時はいつなのか、時間は関係しないことなのか……
もうひとつ、つかんでほしいことがあります。その人の英語の特徴です。テンポやイントネーションもあるでしょうし、イギリス、北米、オーストラリア、ニュージーランド、スラブ系、アジア系など、その人の出身地や民族的な特徴もわかるかもしれません。リスニングでは,意味の理解が最終目的です。でもそこに至るにはたくさんのステップがあり、スピーチの全体的な特徴をとらえることは正しい理解にはとても大切なことなのです。初対面の人に会ったとき、言葉を交わす前の第一印象って大切ですね。リスニングでも第一印象を大切にしましょう。
Step 2 マンブリング
スピーチを聞きながら口の中でブツブツつぶやいてみましょう

これを「マンブリング」と言います。音声をいきなりシャドーイングしようとすると、自分の声が邪魔になってリスニングがやりにくいものです。マンブリングは口の動きが最小限ですむので音声についていきやすく、自分の声に邪魔されることも少なくてすみます。まったく声を出さずに心の中で行う「サイレント・シャドーイング」は音による負担は少ないのですが、口の動きを伴わないとどれくらい正確に自分がスピーチをとらえているのかわかりづらいという欠点があります。小さくても自分の声で反応していくマンブリングは、シャドーイングの導入期にはとてもよい活動です。

本文の単語で知らないものが多いときにはいくら音に集中してもシャドーイングできないのは当然です。その場合には、Step 3 の「テキストで意味や英語の確認」へ進んで、先にテキスト内容の確認をしましょう。訳を真っ先に読むのは掟破りなんかじゃありません。先 に意味をとってそれを足がかりにシャドーイングできれば、それにこしたことはありません。
Step 3 テキストで意味や英語の確認

マンブリングをやろうとしたけれど、単語がいくつかとれただけとか、スピーチの断片しか言えなかったという人もいるでしょう。その場合は、英語をテキストで確認し、意味がわからなかったところは日本語訳をまず読んで、テキストの内容理解を深めてください。読み方がわからない語については、次のStep 4でCD の音声を聞いて正しい読み方を確認しましょう。ここだけの話ですが、時間のない人、せっかちを自認する人には、真っ先に訳を読んで、それから聞き始める「掟破りコース」もあります。。
Step 4 シンクロ・リーディング
CDで音声を聞きながらテキストを音読します

通訳トレーニングでは、「パラレル・リーディング」とも呼ばれる訓練法です。ポイントはふたつ。

1)遅れずについていくこと
2)音の強弱やイントネーション(スピーチのプロソディックな特徴ともいう)をつかむこと

です。シンクロ・リーディングは、音声を聞きながらテキストを音読するわけですから、一見やさしそうですが、意外と話者と自分のリズムが合わないことが多く、慣れるのに時間がかかるかもしれません。それでも、発音をよくしたいと思っている方には、シンクロ・リーディングは大変有効です。口を大きく、柔軟に使うことを意識してください。
Step 5 プロソディ・シャドーイング
聞こえてくるスピーチを聞きながら、できるだけ正確に英語で再現します

いわゆる「シャドーイング」はこれです。途中でつまずいて言えなくなってもかまいません。素早くリカバリーをして、すぐにシャドーイングを再開しましょう。意味をとることが大切か、正確な音声の再現が大切かという質問もあるでしょう。この段階では、正確な音声の再現に意識を置いてください。しかしこれは、意味の把握をおろそかにするということではありません。正確なリスニングは、まず正確な音声の把握に支えられているので、この段階では、特に正確な音声の再現を大事にしてほしいのです。つまり意味はあまり気にしないでおこうというスタンスです。入ってくる音声の特徴を正確にとらえようとするこのシャドーイングを「プロソディ・シャドーイング」といいます。
Step 6 コンテンツ・シャドーイング
音声がある程度とれてきたら、意識を意味に向けてみましょう

内容をとりながらシャドーイングしてみます。音声だけに意識を向けてシャドーイングしているときとは違った負荷がかかるのがわかるはずです。内容をとりながらのシャドーイングということで、これを「コンテンツ・シャドーイング」といいます。声の大きさはマンブリング程度でかまいません。シャドーイングしながら、同時に意味がスルスルととれてくる快感を、ぜひみなさんにも知ってほしいと思います。

文・玉井健(たまいけん/神戸市外国語大学教授